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事業再構築補助金の事業計画作成に「経営デザインシート」を活用しよう!
2023年8月10日、「第11回 事業再構築補助金 公募要領 1.0版」が発表されました。(以下「公募要領」と記載)
事業再構築補助金に採択されるためには質の高い事業計画書を書かなければなりません。質の高い事業計画書を書くためには、よい計画を立てる必要があります。では、よい計画とはいったいどのようなものなのでしょうか。
今回は公募要領「10.事業計画作成における注意事項」(p.43~)記載の「経営デザインシート」「経営デザイン」をキーワードに、事業再構築補助金に合った事業計画の立て方についてご説明したいと思います。
今回お伝えしたいポイント1. 「デザイン」「経営デザイン」って何だろう?
2.「経営デザインシート」の考え方・書き方
3.事業再構築補助金に経営デザインシートを活用する
事業再構築補助金に関する情報はこちらをご覧下さい。
「デザイン」とは?
まず、「デザイン」と聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか?
ポスターデザイン、グラフィックデザイン、ファッションデザインなどの言葉からアート・芸術っぽいもの、ビジュアルに訴えかける何かを想起される方も多いのではないかと思います。もしそのようなイメージをお持ちでしたら、すこし「デザイン」という言葉の捉え直しをしなければいけません。
デザイン(Design)とはラテン語の「Designare」が語源であるとされています。deは「外側」、signareは「識別・マークする」という意味で、Designareは「マークする、指し示す、考案する、選ぶ、指名する」という意味です。
転じて、「Design」は、「目的・機能を持つものを作る計画・構想(プロセス)」を意味します。先ほどのグラフィックデザインやファッションデザインは形や構造、色などの視覚的要素を計画的に組み合わせて作品・製品を創造するもので「狭義のデザイン」と言えます。
経営デザインをはじめ、情報デザインやソフトウェアデザインなど、必ずしもビジュアルを伴うものではない「○○デザイン」が多く見られるようになってきていると思います。ここでいう「デザイン」とは「送り手が受け手に向けて、目的を達成する(伝えたいことを伝える)ための計画・プロセス」を指します(広義の、本来の意味でのデザイン)。
「経営デザイン」とは?
では次に、「経営デザインとは何か?」「経営をデザインするとはどういうことか?」について考えてみたいと思います。
「経営」という言葉は「事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行って実行に移し、事業を管理・遂行すること。また、そのための組織体」とされています(『デジタル大辞泉』より)。
「事業目的の達成」や「計画・実行」など、「広義のデザイン」と似た意味を持っていることがわかります。ではなぜ、似たような意味をもつ「デザイン」と「経営」が合体した「デザイン経営」が謳われるようになったのでしょうか。それには20世紀から21世紀にかけての市場の変化が関係しています。
■20世紀の経営(需要>供給:モノを作れば売れる時代)
20世紀、特に東西冷戦終結までにおいては、市場の需要に比べ供給力が小さい時代が続いていました。「モノを必要としている人は多くいるのに作る力が足りない」時代です。この時代は「モノを作れば売れる」状態であるため、イノベーションに必要なことは「供給能力を高めること」でした。
■21世紀の経営(供給>需要:モノは作れるのに売れない時代)
21世紀に入ると、これまでとは需要と供給の関係が逆転します。供給力に対して需要が少ない、つまり「作る力はあるのに買ってくれる人がいない」時代に入りました。これまでの成功体験であった「機械導入による自動化」「より高い品質の追求」だけでは事業の継続が難しくなったと言えます。
21世紀の経営においては市場の需要を察知し、将来を予測しながら常に自社の強みを更新していくことが求められます。「作れば売れる」時代には必要とされなかった「事業目的の達成」や「計画・実行」の重要性がより増したことから、「デザイン」という言葉を冠した「デザイン経営」という言葉が広く用いられるようになりました。
経営デザインとは、「事業を継続させるという“目標”を達成するために、将来の外部環境を正しく把握し、自社を適合させていく計画・プロセス」と考えられます。
「経営デザインシート」とは?
「経営デザインシート」は上でご説明した「デザイン経営」を行うために作られたシートです。「将来を構想するための思考補助ツール(フレームワーク)」と定義されており、環境変化を見据え、自社や事業の「これまで」の理解に基づき「これから」を構想することを目的に作られています(内閣府 知的財産戦略推進事務局)。「現在」や「自社」よりも「将来」「外部環境」に重きが置かれており、より未来指向型のツールと筆者は考えます。
実際のシートや考え方・書き方について見ていきましょう。
■まずは実物を見てみよう
それでは「デザイン経営」を行うための「経営デザインシート」を見てみましょう。以下のシートはいずれも「経営をデザインする(知財のビジネス価値評価)首相官邸ホームページ」に掲載されています。
■経営デザインシート(新デザイン版) | ■経営デザインシート(旧デザイン版) |
経営デザインシートの特徴は以下の通りです。
- 1枚で全体を俯瞰できる
- 時間軸を意識できる(「これまで」と「これから」)
- 想いを記載できる「自社の目的・特徴」、「事業概要」、「価値」等
- 欄が限られているので、大切なことしか書けない(大切な部分の明確化)
- 「資源」と「ビジネスモデル」と「価値」の関係性を意識しやすい
■経営デザインシートの書き方・考え方
経営デザインシートは書けるところから自由に書いていただいて結講ですが、「環境の変化に対応し、持続的な成長を達成する」ことを目的としていることから、以下のような順番で考えていただくことを推奨しています。
- (A) 自社の目的・特徴:自社や事業の存在意義、企業理念・事業コンセプトを意識します。
- (B)これまで:自社の「これまで」を把握します。経営資源やビジネスモデル、自社の提供している価値などを考えます。
- (C)これから:中・長期的な視点で「これから」のありたい姿を構想します。
- (D)移行戦略:(C)で考えた「ありたい姿」になるために今の自社に足りないこと、今から何をすべきか、「戦略」を策定します。
■書き方のポイント① 「(C)これから」から「(D)移行戦略 」を逆算する
上で「書けるところから自由に書いてよい」とお伝えしましたが、経営デザインシートを書くうえでいくつかのポイントがありますのでご紹介します。
まず1つめは「移行戦略」(D)は「これまで」(B)ではなく「これから」(C)から逆算して考える、ということです。
これまでの自社(B)を手がかりにして移行戦略を考えるのではなく、これからのありたい姿(C)を先にイメージし、その姿になるために必要な移行戦略を立てる“バックキャスト”という考え方を使うのがポイントです。
これは「作れば売れる時代」ではなく「市場や需要を捉える必要がある時代」(21世紀型)の経営の考え方をベースに作られているためです。今の自社にできることから将来像を発想するのではなく、これからの外部環境から発想することで、今の自社に足りないもの、必要なものがより明確に分かります。
■書き方のポイント② 「(C)これから」の記入は「価値」欄からスタートする
「これまで」(B)と「これから」(C)には同じ見出し、「資源」「ビジネスモデル」「価値」があります。いずれも自社について記載する箇所となります。
「これまで」(B)はどこから書いていただいても大丈夫なのですが、「これから」(C)では「価値」⇒「ビジネスモデル」⇒「資源」の順に記載するようにしてください。
将来の市場や需要に合わせて「自社が提供できる価値は何か?」「自社が得られる価値は何か?」を最初に考え、次のステップとして「どのようにして価値を生み出すか?」を考えます。最後に「そのために必要な経営資源は何か?」を考えるという流れです。
ここでも「自社を軸足にするのではなく、市場・需要に目を向ける」という考え方が取り入れられています。
記載様式は過去のものとなりますが、記入例をご紹介いたします。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou8.pdf
事業再構築補助金との関係
ここまで経営デザイン、経営デザインシートについて見てきました。「経営デザインシートを作ることで何か事業再構築補助金に有利になるの?」「経営デザインと事業再構築って何か関係があるの?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、「事業再構築補助金」と「経営デザイン」との関係について見ていきましょう。
■事業再構築補助金の概要・目的
事業再構築補助金の公募要領では、補助金の概要を次のように述べています。
本事業は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
販路開拓を促進する「小規模事業者持続化補助金」や、革新的な製品・サービスづくりを推進する「ものづくり補助金」とは異なり、「経済社会の変化」や「日本経済の構造転換を促すこと」との記載があり、よりダイナミックな目標となっていることがわかります。
■将来性・市場性が求められる
小規模事業者持続化補助金では自社の新商品・サービスの販路開拓に対して、ものづくり補助金では自社の強みを活かした革新的な製品・サービスに対して、それぞれ国からの補助がありました。
事業再構築補助金では変化する経済社会に合わせ、自社や事業の形を新しいものに変えていく必要があります。成長の見込まれる新たな市場を狙い、自社で取り組んだことのない新たな商品やサービスを投入することが求められます。
現在の自社の状況から着想するのではなく、将来の市場環境を軸に事業計画を策定するあたり、「経営デザインシート」との親和性が高いと考えられます。
■経営デザインシートをどのように活用するか
事業再構築補助金は「より大胆な事業の再構築」が求められます。これに対し、経営デザインシートは「将来から逆算して自社の資源を再構築する」ための思考を助けてくれるというものでした。事業再構築補助金と経営デザインシートの親和性が高いことについてご理解いただけたかと思います。
作成した経営デザインシートをもとに、どのように事業再構築補助金の事業計画書を作成するか(経営デザインシートの活用法)について、最後に概要をご紹介いたします。
事業再構築補助金の公募要領では事業計画書には以下の項目を記載するよう指定されています。
- 1:補助事業の具体的取組内容
- 2:将来の展望
- 3:本事業で取得する主な資産
- 4:収益計画
「1:補助事業の具体的取組内容」には経営デザインシートの「これまで(B)」と「移行戦略(D)」、「2:将来の展望」には「これから(C)」、「3:本事業で取得する主な資産」には「移行戦略(D)」の「必要な資源」
に記載されている内容が相当します。
事業再構築補助金の事業計画書を書く前のウォーミングアップや頭の整理として、経営デザインシートを作成しておくことは有用であると考えます。
まとめ
事業再構築補助金では将来性のある市場の選定や、そこでいかに存在感を示せるように自社・強みを再構築していくか、が問われます。商品やサービスではなく、自社のありかたや経営そのものを設計していく必要があり、「経営デザイン」の考え方が必要不可欠となります。
経営デザインの手法を用い、自社の事業計画を視覚的に考えるために有用なツールとして「経営デザインシート」があります。
経営デザインシートを作成することは、将来に向けた事業計画を立てると同時に、事業再構築補助金の事業計画書に必要な情報を1ページにまとめることである、といっても過言ではないでしょう。
事業再構築補助金の事業計画書は10~15ページと文量も多く、書くのもまとめるのも大変であると思います。経営デザインシートは事業再構築の全体像を1ページで俯瞰でき、事業計画書を作成する際の強い味方になってくれるものと考えます。質の高い事業計画書を作成するため、経営デザインシートを活用してみてはいかがでしょうか。
なお、HKSでは事業再構築補助金において、多くの支援実績がございますので、よろしければご相談下さい!
今回は以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
- 経営をデザインする(知財のビジネス価値評価)首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/index.html
- 「経営デザインシート」について(初期デザイン版)(PDF/1.8MB)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou01.pdf