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補助金を返す?!とならないための知識(ものづくり補助金/賃金引上げ計画の注意点)
はじめに
「補助金って本当に返さなくていいの?」と思ったり調べたりしたことはありませんか?
補助金は、金融機関からの融資などとは異なり、原則として返済を前提としていない制度(※1)ですが、場合により一部または全額の「返還」が指示される条件があります。
※1:返還とは別に「収益納付」の考え方があるので後述します
せっかく交付された補助金を返還しなければならない事態、これは誰にとっても避けたいはずです。
万が一、補助事業を実施した後に補助金の返還を求められてしまったら、事業者様の経営に影響を及ぼしかねません。
今回はそんな補助金返還の可能性について、特に、ものづくり補助金の「賃金引上げ計画と補助金返還の条件」関するお話です。
ものづくり補助金申請の基本要件(おさらい)
ものづくり補助金申請の『基本要件』は、以下の通りです。
「以下の要件をすべて満たす、3~5年の事業計画を策定していること」
それぞれの要件を確認します。
事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上アップ
「給与支給総額」とは、全従業員と役員に支払った給与等のことです。
全従業員には非常勤を含みます。
また、「給与等」は、給料、賃金、賞与、役員報酬のことであり、福利厚生費、法定福利費、退職金は含みません。
事業計画期間において、事業場内最低賃金を「地域別最低賃金+30円」以上の水準にする
最低賃金とは、毎月支払われる基本的な賃金のことです。
基本的な賃金ですので、賞与、時間外・休日割増、通勤手当、家族手当等は含まれません。
事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上アップ
付加価値額とは、営業利益、人件費、減価償却費を足したものをいいます。
【注意点】
ものづくり補助金の基本要件に関する注意点です。
「10次締切の公募内容」は、前年12月に発表された令和3年度補正予算が反映され、9次締切までとは申請要件が変わりました。
前述した「基本要件」も次のように変わっています。
【9次】
以下の要件をすべて満たす3~5年の事業計画を策定し、従業員に表明していること。
【10次】
以下の要件を全て満たす3~5年の事業計画を策定していること。
基本要件の変更ですので、ご注意下さい。
本記事では、それに伴う「様式1」の様式変更などにも触れていきたいと思います。
賃金引上げ計画と補助金返還の条件①
事前に、申請時点において、申請要件を満たす賃金引上げ計画を策定している必要があります。
交付後に策定していないことが発覚した場合は、補助金額の返還を求められてしまいます。
ポイントその①:
必ず、補助金申請する前に申請要件を満たす賃金引上げ計画を策定する
※9次締切分までと違い、補助事業に関わる従業員全員に対する計画の表明は不要です。
賃金引上げ計画と補助金返還の条件②
次に、給与支給総額の増加目標が未達(未達成)の場合です。
「計画は立てたら終わり」は許されません。
採択されることを目的に、達成できそうにないけど見た目が良い計画を作るのではなく、実現可能な事業計画を策定する必要があります。
補助事業を完了した年度の翌年度以降、3~5年間の事業計画を終了した時点で、「給与支給総額の年率平均1.5%以上増加」という目標が達成できていない場合は、返還が求められてしまいます。
返還しなければいけない金額は、導入した設備等の簿価もしくは時価のいずれか低い方の額のうち、補助金額に対応する分とされています。
補助金額に対応する分とは、「残存簿価等×補助金額÷実際の購入金額」です。
【注意点】
以下の条件が当てはまる場合は、「補助金の一部返還を求めない」とされています。
(1)付加価値額が目標通りに伸びなかった場合
付加価値額とは、営業利益、人件費、減価償却費を足したものをいいます。
この付加価値額が目標通りに伸びなかった場合は、「給与支給総額の目標達成」を求めることは困難です。
その場合、給与支給総額の年率増加率平均が「付加価値額の年率増加率平均÷2」を越えている場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、補助金の一部返還を求められることはありません。
(2)特別な事情がある場合
また、給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情がある場合には、給与支給総額増加率に代えて、一人当たり賃金の増加率を用いることを認めるとされています。
ポイントその②:
給与支給総額の増加目標は達成する(ただし上記(1)(2)の事情があれば返還は不要)
賃金引上げ計画と補助金返還の条件③
そして、事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合です。
こちらも「立てた計画は実行しなければならない」です。
補助事業を実施した年度の翌年度以降、事業計画期間中の毎年3月末時点において、「事業場内最低賃金の増加目標」が達成できていない場合は、返還が求められてしまいます。
返還しなければいけない金額は、補助金額を事業計画年数で除した額です。
給与支給総額が、3~5年間の事業計画を終了した時点で判定されるのに対して、事業場内最低賃金は、毎年3月末に判定され、目標未達であったならその年一年分を返還しなければならないようなイメージです。
【注意点】
以下の条件が当てはまる場合は、「補助金の一部返還を求めない」とされています。
(1)付加価値額の増加率が年率平均1.5%に達しない場合
(2)天災等事業者の責めに負わない理由がある場合
ポイントその③:
事業場内最低賃金の増加目標は達成する(ただし上記(1)(2)の事情があれば返還は不要)
10次締切公募以降の変更点
令和4年2月、ものづくり補助金事務局より10次締切分の公募内容が発表されました。
10次締切は、前年の12月に発表された令和3年度補正予算を反映したものとなっており、9次締切とは申請要件が変わりました。
はたしてこれまでと何が違うのか、注意点は何かなどの詳細は、本サイトのこちらの記事にまとめてあるのでご参照下さい(記事へのリンク)。
そんな変更点の中で、今回のテーマである「賃金引上げ計画と補助金の返還条件」に関わる内容をピックアップします。
まず1つめが、「回復型賃上げ・雇用拡大枠」の新設。
そして2つめが、前述の通り基本要件が変わったことに伴い、添付すべき「様式1」が「賃上げ計画書」から「賃上げ宣誓書」に変わったことです。
回復型賃上げ・雇用拡大枠の未達は「全額返還」
10次締切から「回復型賃上げ・雇用拡大枠」が新設されました。こちらは、業況が厳しいながら賃上げ・雇用拡大に取り組む事業者が行う、「革新的な製品・サービス開発」や、「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等を支援するために新設された特別枠です。
概要は次の通りです(上記リンク掲載した記事の抜粋)。
対象 | 業況が厳しいながら賃上げ・雇用拡大に取り組む事業者が行う、革新的な製品・サービス開発または生産プロセス・サービス提供改善に必要な設備・システム投資 |
補助率 | 3分の2に引き上げられます |
追加要件 | 基本要件に加え、下記3点を満たす必要があります
|
返還条件 | 給与支給総額と事業場内最低賃金の増加目標のいずれかが未達の場合、交付額全額を返還する必要があります。従業員に対する賃上げ等を前提とした優遇制度であるためです。申請時に、課税所得の状況を示す確定申告書類が必要です。 |
一番下の「返還条件」」にある通り、「回復型賃上げ・雇用拡大枠」は賃上げ等を前提とした優遇措置です。
したがって、同枠で採択された事業者が補助事業を完了した事業年度の翌年度の3月末時点において未達の場合は、「全額返還」を求められる点にご注意下さい。
未達の条件は「給与支給総額と事業場内最低賃金の増加目標のどちらかが未達の場合」ですので、どちらも達成する必要がある点にもご注意下さい。
ポイントその④:
「回復型賃上げ・雇用拡大枠」で申請して採択された場合は、給与支給総額と事業場内最低賃金の増加目標のどちらも必ず達成する(未達の場合は全額返還)
賃上げ計画書から、賃上げ宣誓書への変更
10次締切の公募から変わった事項の2つめです。
前述の通り、基本要件から「従業員への表明」が削除されたこととあわせての変更となります。
9次締切までは「従業員への賃金引上げ計画の表明書」だったのですが、10次締切からは「賃金引上げ計画の誓約書」に変わりました。
【9次】従業員への賃金引上げ計画の表明書:
・宣言する相手は従業員
・従業員代表等の捺印が必要(下記の赤枠)
【様式】従業員への賃上げ計画の表明書
【10次】賃金引上げ計画の誓約書:
・宣言する相手は全国中小企業団体中央会の会長
・従業員代表等の捺印は不要に
【様式】賃上げ計画の誓約書:
左上の宛先が全国中央会となり、下部にあった従業員代表等の捺印欄が無くなりました。
このように様式自体が変わっているのでご注意下さい。
ご存じの通り、ものづくり補助金の加点項目には「賃上げ加点等」があります。
<申請請要件(必達)>
給 与 支 給 総 額 :年率1.5%以上
事業場内最低賃金:地域別最低賃金+30円
<加点要素1>
給 与 支 給 総 額 :年率2%以上
事業場内最低賃金:地域別最低賃金+60円
<加点要素2>
給 与 支 給 総 額 :年率3%以上
事業場内最低賃金:地域別最低賃金+90円
当然ながら、申請後の審査において、加点が多いほど採択の確率が高まります。
そして、上記の必達水準を下回りさえしなければ、補助金の返還は求められません。
申請時に高い目標を掲げることはいくらでもできます。
ただし、9次締切であれば従業員に宣言せよとされていたものが、10次締切からは全国中小企業団体中央会の会長へと誓約する相手が変わりました。
その点はご留意下さい。
事業化状況報告と収益納付
補助事業者には、交付決定後の義務としていくつかの遵守すべき事項があります。
その一つが、「本補助事業に係る事業化等の状況報告を行うこと」です。
実際の”報告”は、「事業化状況・知的財産権等報告書」により行うとともに、本事業に関係する調査に協力すること、また、事業場内最低賃金の確認のため「賃金台帳」の提出を求められます。
事業化状況・知的財産件等報告書は、本事業の完了した日の属する会計年度(国の会計年度である4月~3月)の終了後5年間、毎年、会計年度終了後60日以内に提出しなければなりません。
【様式】事業化状況・知的財産件等報告書(一部抜粋):
【注意点】
現時点では、10次締切の公募要領は発表されましたが、交付以降の手続きに関する文書類の改定はまだ発表されておりません。
上記の「事業化状況・知的財産権等報告書」は現行のバージョンであること、御承知おき下さい。
冒頭に書いた通り、補助金は原則、返済を求められない制度ですが、「収益納付」という考え方があります。
具体的には、上記の「事業化等の状況報告」から、「本事業の成果の事業化」「知的財産権の譲渡」「実施権設定」及び「その他、当該事業の実施結果の他への供与」により収益が得られたと認められる場合には、受領した補助金の額を上限として収益納付しなければなりません
ただし、事業化状況等報告の該当年度の決算が赤字の場合や、十分な賃上げによって公益に相当程度貢献した場合は免除されます。
十分な賃上げとは、年率平均3%以上給与支給総額を増加させた場合や、最低賃金を地域別最低賃金+90円以上の水準にした場合などを指します。
まとめ
以上、補助金返還の可能性がある、ものづくり補助金における「賃金引上げ計画と補助金返還の条件」についてのお話でした。
せっかく交付された補助金を返還しなければならない事態を避けるためにも、補助金を申請する前、事業計画を策定する時点から上記の事項に留意するようにして下さい。
今回は「もの補助」に関する記事でしたが、賃上げ要件がある補助金はほかにもありますので、それぞれ公募要領を読み込んで注意すべきポイントを押さえるようにしていただけたらと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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